インバーター導入による電力削減効果の予測
- IoT電力センサ
世界の電力消費量のうち三相誘導モーターに使用される電力は、40~50%を占めるとされており、多くの電力を消費している機器と言えます。日本では、家庭用を含むモーターの普及台数は1億台とも言われ、日本国内の消費電力量の55%と推計されています。産業用途の消費電力量に着目しますとモーターが占める割合は75%とも言われています。(1)
消費電力削減にはモーターを高効率なものに変更することが効果が高いのですが、容易にモーター自体を交換することはできません。インバーターを追加しモーターを効率よく運転することで消費電力の削減を行うことができるとされていますが、すべての場合において消費電力を削減できるとは言い切れません。
そこで、電力センサを活用した電力削減効果を見積もる方法を(株)SIRCは提案します。
誘導モーターの特性
誘導モーターは、商用電源に直接接続して使用でき、構造が単純で安価なことから、ポンプ・圧縮機・送風機などの産業用途として広く使用されています。誘導モーターの特性図を図1に示します。
誘導モーターは回転速度が上昇するとトルクが増してゆくのですが、ある回転速度を境にトルクが減少します。電源周波数と同期したときはトルクが無くなってしまいます。ポンプやファンなどの流体機器に使用すると回転速度を制御しなくても、回転速度がほぼ一定に保たれることから、換気扇やコンプレッサ、ポンプなどによく使用されます。
誘導モーターの動作点
誘導モーターは定格出力付近で運転しているときが最も効率がよくなります。
誘導モーターは始動トルク(回転速度=0のとき)が小さく、定格トルクを要求される負荷は始動できませんので、定格出力で運転することはありません。したがって、始動トルクよりも小さい領域の負荷でしか運転できないことから、モーターの定格出力付近の効率の良い条件で運転できないことが多いです。始動トルクと動作点の関係を図2に示します。
誘導モーターは図2に示すように、定格出力に対して小さな出力で運転している場合が多く、効率が良いところで使用されていないことが多いです。インバーターはモーターに供給する周波数、電圧をコントロールできますので、動作点を変化させることができます。
以降は、インバータを使用することにより電力が削減できる仕組みを説明します。
インバーターによって動作点を変化
市販のインバーターはモーターに供給する周波数、電圧を複雑にコントロールしていますが、説明を簡単にするため電圧だけを変化させ誘導モーターの動作点が変化することを説明します。電圧を変化させることによる動作点の変化の様子を図3に示します。
インバータ―によって、誘導モーターに供給する電圧を変化させてみます。誘導モーターの発生トルクは電源電圧のほぼ2乗に比例しています。インバーターにより電源電圧を下げると、それに応じてトルクが低下します。(青線)ただし、周波数は変化させていませんので、回転速度-効率特性はあまり変化しません。(緑線)負荷トルクを一定としますと供給電圧を下げることで回転速度が低下し、効率が上昇することがわかります。
市販のインバーターは、始動のときは電圧を上げ始動トルクを確保し、定常運転になると周波数や電圧を最適値にすることで、誘導モーターを効率よく運転させることができます。
力率から動作点を求めます。
誘導モーターにインバーターを取り付け消費電力削減できるかどうかは、現時点での誘導モーターの動作点を求める必要があります。運転中の誘導モーターの回転速度とトルク,消費電力が測定できれば動作点を正確に求めることができますが、簡単に測定することはできません。
誘導モーターの動作特性を図4のように直線で近似します。誘導モーターは定格回転速度で運転しているとき、力率も効率も80~90%の値となります。
したがって、力率≒効率と考えることができます。
多くの場合、通常運転しているときは、力率は50%以下で運転されている場合が多いですので、インバーター導入による電力削減効果は30%程度は見込めます。
数%オーダーの電力削減効果を狙うのであれば、精緻に特性を把握する必要がありますが、多くの場合は、その必要はありません。
まとめ
誘導モーターに供給している電力と力率を測定することで、どれくらいの効率で運転しているかを把握することができ、インバーター導入による電力削減効果を見積もることができます。
SIRCの電力センサは2つのセンサヘッドを2本の線にクランプするだけで、電力と力率を簡単に測定することができます。
参考文献
(1)一般社団法人 日本電機工業会 トップランナーモータ