ヒーターの断線検出
- IoT電力センサ
ほぼすべての工場でワークを加熱する工程が存在し、その温度は重要なパラメータとなっています。温度による固体ー液体-気体の相変化を利用するもの、温度変化にともなう膨張・収縮などの物理パラメータの変化を利用するもの、温度による化学変化を利用するものなどワークを加熱し様々な加工が行なわれています。
ワークに熱エネルギーを与える手段として抵抗体に電流を流すと発熱するジュール熱を利用したヒーターが主に用いられています。ヒーターは、ガスなどの燃料を使用した加熱方法のように排気ガスを出さないクリーンな熱源であり、細かな温度調節ができます。産業用に供給される電気は三相交流ですので、これを電源とするときは電流バランスを均等にするためにヒーターを3個用います。
ヒーターは可動部がないことから半永久的に使用できると思われがちですが、実は、温度変化による膨張・収縮、高温下での酸化などで劣化する寿命部品です。ヒーターは劣化すると断線しますが、3個のヒーターのうち1個が断線しても、残りの2個に電流が流れるため断線の検出は容易ではありません。力率を測定することでヒーターの断線を検出する方法とその応用としてインバーターの欠相運転の検出を(株)SIRCは提案します。
金型の温度管理
図1は、樹脂成型機の金型の温度を一定に保つ仕組みを表したものです。ヒーターと温度調節器とを組み合わせることで精度よく温度をコントロールできます。
温度調節器は熱電対で測定した温度をもとにヒーターへ供給する電源のONとOFFとを繰り返し、その時間比率によって、金型温度を一定に保つ働きをしています。
図2は、ヒーター電源のON/OFFタイミングを表したものです。ON/OFFの周期は金型の熱容量とヒーターの能力から決定され、数秒~数10秒が一般的に用いられます。
ヒーター断線
ヒーターのおもな故障モードは断線です。三相交流の場合は3本のヒーターを使用しますので、1本が断線しても残りの2本が補っている場合があり故障に気づかない場合があります。2本のヒーターで運転を続けると金型の温度バランスが悪くなるために加工品質が低下します。
例として図1に示すヒーターへの電力供給が図2のとき、設定した温度で安定しているとします。
ヒーターCが断線すると温度調節器は図3のようにヒーターの電源がONになっている時間を長くして金型温度を設定値で安定させようとします。金型温度の測定値が設定値で安定しても、ヒーターCには電源供給されていませんので金型温度が不均一となります。
ヒーター断線の検出
ヒーターの断線と電流値のバランスを表1に示します。正常時の電流値を1:1:1としました。
1か所ヒーターが断線すると、その瞬間は電流値が減少します。すべての相で電流値が減少するのではなく、電流が変化しない相が存在します。どのヒーターが断線するかはわかりませんので、電流測定で断線を検知するためには、3本すべてに電流センサを取り付けなければなりません。また、ヒーターが断線すると温度調節器は電流を増加させる方向に制御します。この動きは断線検知を困難にします。
表2は表1に電力と力率を加えたものです。1か所ヒーターが断線すると電流がアンバランスになりますので力率が低下します。温度調節器は電流が増加するように制御しますが、力率は変化しません。力率を監視することで容易に断線を検知することができます。
インバーターの欠相運転検出
力率はヒーターの断線検出だけではなく欠相の検出に利用できます。三相交流電源の3本の送電線のうち1本が電線の断線,接続部のゆるみ,開閉器の設定不良などが原因で、働かなくなった状態を欠相と言います。インバーターによっては、欠相しても運転を続けることができてしまうものがあります。本来3本の線を使用して電力供給しているところが2本になりますので、電流値は√3倍になり発熱や振動などのトラブルの要因となります。
図4にインバーターの構成を示します。インバーターは、交流電圧を整流・平滑し、直流電圧に変換したのち周波数や電圧がコントロールされた交流に変換します。
インバーターは、欠相があっても動作し続けることができ、欠相に気づくことができないことがあります。電流値が増加することで温度上昇し、故障の原因となることもあります。
まとめ
負荷が抵抗であっても電流がアンバランスのとき、力率は低下します。電流の大小ではなく、力率を測定することで機器の異常を検出することが容易となります。SIRCの電力センサは2つのセンサヘッドを2本の線にクランプするだけで、電流だけではなく力率を簡単に測定することができますので、機器の異常を検出することができます。